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横浜地方裁判所 昭和31年(わ)128号 判決 1960年8月31日

被告人 矢崎安重 外二名

主文

被告人矢崎安重、同安達盛、同成田美智由を各禁錮六月に処する。

訴訟費用中証人高橋周(昭和三二年一〇月二八日、同年一一月八日の各公判期日に出頭した分)、同石川三郎(昭和三二年一〇月二八日、同年一一月八日の各公判期日に出頭した分)、同北村稔、同古沢喜代子、同浅野きく子、同田丸紀子、同今中良三、同清水ツ子、同橋本辰雄、同黒岩二三男、同滝沢武史、同中村スミ子、同五木田吉家、同柏木信夫、同重田キヨ子に支給した分は各三分しその一づつを被告人矢崎安重、同安達盛、同成田美智由の、証人米本和夫、同米山雅、同日野原保に支給した分は各二分し、その一づつを被告人矢崎安重、同安達盛の、証人千葉繁男、同宇佐美英治、同金井一成、同河津一郎、同小甲実に支給した分は被告人矢崎安重の証人三堀喜三郎、同小山栄吾、同高橋周(昭和三四年一一月三〇日の公判期日に出頭した分)に支給した分は被告人安達盛の、証人小松哲夫、同鈴木敏弘(昭和三四年一一月三〇日の公判期日に出頭した分)に支給した分は被告人成田美智由の、各負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人矢崎安重は京浜急行電鉄株式会社鶴見駅勤務の駅務係として出、改札、及び精算の事務並びに同駅における通過列車の接近を同駅ホームの乗客にはホームの標示板の点灯及びブザーの警鳴により、鶴見市場第四踏切番舎の警手には、踏切番舎のブザーの警鳴により知らせるため同駅事務室に設置された通過列車制御装置の起動スイツチを取扱う業務に従事していたもの、被告人安達盛は同会社鶴見市場第四踏切勤務の踏切警手として同踏切に設置された遮断機を開閉すること等により同踏切における列車並びに通行人及び車馬を安全に通行させるべき業務に従事していたもの、被告人成田美智由は横浜市交通局鶴見営業所勤務の乗合自動車運転者として同営業所の所轄する路線を走行する乗合自動車運転の業務に従事していたものであるが、昭和三一年一月八日午後五時四〇分頃、被告人成田美智由が安善町行横浜市営乗合自動車(神二―五〇四五一号)に車掌浅田こと古沢喜代子とともに乗務し、乗客斎藤美津子ほか二一名を乗車させて国電鶴見駅前を発車し、京浜第一国道え通ずる道路上を進行し、同日午後五時四一分頃右道路と浦賀、品川間の京浜急行電鉄株式会社線々路と交叉している地点にある同市鶴見区鶴見町一、四三五番地所在鶴見市場第四踏切に差しかかると、同踏切通過の下り列車のため遮断機が降下していて踏切前に小型乗用自動車及び北村稔の運転する矢向行同市営乗合自動車(神二―五〇四四二号)が停車していたので、右矢向行乗合自動車の後方に停車したが、折柄長瀬一の運転する上り第一七七四臨時廻送列車(京浜鶴見駅無停車)が同日午後五時三八分頃京浜子安駅を発車し、京浜川崎駅方面に向け時速約六五粁をもつて右踏切に向かつて進行していたものであるところ、

第一、被告人矢崎安重は同日京浜鶴見駅の駅務係として勤務しており、右第一七七四臨時廻送列車が生麦駅を通過した直後同駅係員から京浜鶴見駅を通過する列車が当駅を通過した旨電話連絡を受けたが、かかる場合電話連絡を受けた京浜鶴見駅の駅務係が直ちに前記通過列車制御装置に起動スイツチを入れると、通過列車が一六〇号信号機すなわち花月園前駅出発相当信号機の地点を踏むと同時に自動的に点灯するよう鶴見市場第四踏切の番舎に設置された接近灯が点灯するとともに同番舎のブザーが鳴り出し、これによつて同番舎の踏切警手が京浜鶴見駅通過の列車の接近を知るものであるから、昭和三〇年一一月頃前記通過列車制御装置の使用開始にあたり、同駅駅務係は同駅駅長より右装置の機能を説明され、生麦駅から通過列車の連絡を受けたときは直ちに右装置の起動スイツチを入れるよう指示を受けていたものであるので被告人矢崎としては右電話連絡を受けたのち、直ちに前記通過列車制御装置の起動スイツチを入れ、鶴見市場第四踏切番舎の踏切警手に対し通過列車の接近を通報すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、右注意義務を怠り直ちに起動スイツチを入れることをなさず、上り列車の進行位置を右通過列車御装装置の接近灯により確めることもなさず、漫然ホームに対する場内放送のみをなし、同駅々務係鈴木義夫において右通過列車が一六〇信号機すなわち花月園前駅出発相当信号機の地点を踏んだことを示す右通過列車制御装置の第二接近灯が点灯しているのに起動スイツチを入れていないことに気付き急拠同人が右スイツチを入れるまで右スイツチの操作をしないで放置し、右スイツチを電話連絡を受けたのち直ちに入れておれば、鶴見市場第四踏切番舎の列車接近灯が点灯すると同時に列車接近ブザーが鳴り出し、踏切警手に京浜鶴見駅を通過する列車の接近を通報し、通過列車に対応して遮断機を降下せしめ得たのに被告人矢崎安重において右スイツチを入れることをしなかつたため同踏切番舎の列車接近ブザーが列車接近灯の点灯より遅れて鳴るにいたらしめた結果、被告人安達盛をして右上り第一七七四臨時廻送列車を京浜鶴見駅に停車する列車と誤信せしめて右列車に対する遮断機の降下の時期を誤らしめ

第二、被告人安達盛は同日鶴見市場第四踏切の踏切警手として勤務し同踏切における列車並びに通行人及び車馬を安全に通行せしむべき業務を担当中、同日午後五時四一分頃前記下り列車が右鶴見市場第四踏切を通過したので降下していた遮断機を上昇させて同踏切前に停車していた前記小型自動車等をして踏切を通過させ始めたところ、折柄前記上り第一七七四臨時廻送列車が一六〇信号機すなわち花月園前駅出発相当信号機の地点を踏み接近して来たことを知らせる踏切番舎の列車接近灯が点灯し、その後まもなく、遅くとも右列車が一五四信号機すなわち鶴見第一踏切信号機の地点を踏むとき(京浜鶴見駅停車の上り列車がこの地点を踏むと踏切番舎の列車接近ブザーが自動的に鳴る)までには踏切番舎の列車接近ブザーが鳴つたが、かかる場合踏切警手たるものは常に正確なダイヤの時刻を把握していて右列車接近灯が点灯したならばその接近列車が定時列車であるか、臨時列車であるかを確認し、もし臨時列車ならば廻送等の京浜鶴見駅通過列車であるかも知れないことを当然に予期し、予め早期に遮断機を降下すべきであり、また接近ブザーが鳴つた際、踏切内に車馬或いは通行人のあるときは遮断機をできるだけ降下するとともに手笛を吹くとか、大声を発するとか、手で指示するとかして踏切内の車馬或いは通行人を速に踏切外に出すとともにこれらのものが新たに踏切内に立入らぬようにし、もつて踏切における列車と車馬及び通行人との衝突の危険を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、右注意義務を怠り平素から正確なダイヤの時刻を軽視し列車接近灯及び接近ブザーまたは接近ベルのみに頼つて列車の京浜鶴見駅停車及び通過の区別をしていたため、前記のように被告人矢崎安重の過失により上り第一七七四臨時廻送列車の接近ブザーが接近灯の点灯と同時にならなかつたので右列車を京浜鶴見駅に停車する列車と軽信して遮断機降下の時期を失し、しかも右接近ブザーが鳴り始めた際前記北村稔の運転する矢向行乗合自動車が踏切内にあつたので遮断機を約一尺五寸降下したのみで漫然同乗合自動車の踏切通過を待ち、後続の自動車等の踏切内えの進入を防止すべき措置をなんら執らなかつたため、被告人成田美智由をしてその運転する乗合自動車を踏切内に乗入れしめ、

第三、被告人成田美智由は前記のように鶴見市場第四踏切前で小型乗用自動車及び矢向行乗合自動車の後方に停車していたところ、まもなく下り列車が同踏切を通過し遮断機が上昇したので右小型乗用自動車、矢向行乗合自動車に続いて同踏切を通過しようとしたが、同踏切は左右特に右方は見透しが困難な状況にあるから、かかる場合自動車運転者としては遮断機が上昇していても踏切直前において一時停車し列車の進行音に注意し或いは車掌を下車誘導させるなど同踏切通過の安全を確認したのちに通過すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず右注意義務を怠り遮断機が上昇し、前行の矢向行乗合自動車が同踏切上を進行するやたやすく列車の通過がないものと軽信し、踏切直前における一時停車、車掌の下車誘導等の安全確認の措置をとることなく漫然右自動車に追尾して自己の運転する前記乗合自動車を時速約五粁の速度で同踏切内に乗り入れしめ、

これら各被告人の過失により右長瀬一の運転する前記上り第一七七四臨時廻送列車の右踏切通過に際し、被告人成田美智由の運転する乗合自動車が前記のように踏切内に進入したため右踏切上において右列車をして右乗合自動車の右側後部附近に激突せしめて同自動車をはね飛ばし、さらに同自動車をして同所線路東南側沿いにあつた青木好江経営の屋台店他二軒を押倒しめ、同所附近にいた佐々木昭、佐々木幾代をはね飛ばしめたうえ、その南側道路上を東方に向け進行中の前記北村稔の運転する矢向行乗合自動車の左側後部に激突するに至らしめ、よつて右被告人成田の運転する乗合自動車の乗客である斎藤美津子(当時三五年)を同日午後五時四三分頃右同所において衝突によるシヨツクにより、竹腰盛(当時二九年)を同日午後七時三〇分頃横浜市鶴見区鶴見町三二九番地橋爪病院において頭蓋底骨折により、右佐々木昭(当時二四年)を同日午後六時五分頃右橋爪病院において脳挫傷により、右佐々木幾代(当時二二年)を同日午後五時四三分頃右衝突場所において頭蓋底骨折により、それぞれ死亡せしめたほか、別紙一覧表記載のとおり増田秀夫他二一名に対しそれぞれ傷害を負わせ

たものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

被告人矢崎の弁護人は、被告人矢崎は本件通過列車制御装置のスイツチを操作することにより、鶴見市場第四踏切の踏切警手に対し京浜鶴見駅通過列車の接近を通報することは戸田駅長から指示されず、これを通報すべき業務上の注意義務はない。同踏切の踏切警手が右通報によつて遮断機を降下することは被告人矢崎の認識にないことであり、認識し得ないことである。従つて被告人矢崎が本件通過列車制御装置のスイツチ操作に関し、右踏切における本件事故の発生を認識することは不可能であり、被告人矢崎には本件事故発生について認識(予見)可能性は全く存しないと主張するが、判示事実認定に引用した前示各証拠を総合すると、被告人矢崎は、判示のとおり戸田京浜鶴見駅長から指示されていて判示のような業務上の注意義務があり、被告人矢崎にとつて本件通過列車制御装置の操作に関し本件事故の発生を予見することは可能であつたと認めることができるから、右弁護人の主張は採用できない。

被告人安達の弁護人は、被告人安達にとつて本件上り第一七七四臨時廻送列車が京浜鶴見駅通過列車であることの認識(予見)可能性がなく、高速度をもつて同駅構内に進行して来た右列車を望見し得ない状況にあつたものであり、また、本件踏切上を北村稔の運転する乗合自動車及び臨港バスが通行中で踏切ブザーの警鳴によつて直ちに遮断機を降下することができず、北村稔の運転する乗合自動車の通過により遮断機を降下する機の瞬時の間に被告人成田の運転する乗合自動車が踏切に進入し、しかもその時には本件上り列車が二三・七米の距離に迫つていた事実関係にあり、本件事故の発生は不可避であつて、被告人安達が本件事故の発生を防止する手段方法は存在せず、また何人に対してもその手段方法を期待し得る可能性は全くなく、本件事故の発生は被告人安達にとつて不可抗力に属すると主張するが、判示事実認定に引用した前示各証拠を総合すると、被告人安達には判示のような業務上の注意義務があり、被告人安達が判示事実関係のもとにおいてその注意義務を遵守していた場合には本件上り第一七七四臨時廻送列車が京浜鶴見駅通過列車であるかもしれないことを予期して、本件踏切における遮断機降下の時期を失することがなかつたか、または被告人成田の運転する本件安善町行乗合自動車が本件踏切に進入することを防止する措置を執ることができていて、本件事故の発生を防止することができたものと認められるのであるから、被告人安達に対し本件事故の発生を防止することを期待する可能性は全くなかつたものということはできないし、本件事故の発生が被告人安達の予見することのできない不可抗力によるものということもできない。従つて右弁護人の主張もまた採用できない。

(法令の適用)

被告人らの判示各業務上過失致死、同傷害の所為はいずれも刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号、第二条第一項に該当するところ、右の各所為は各被告人につきいずれも一箇の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五四条第一項前段、第一〇条により犯情の最も重い斎藤美津子に対する業務上過失致死の罪の刑をもつて各処断することとし、いずれも所定刑中禁錮刑を選択し、その所定刑期範囲内で各被告人をそれぞれ禁錮六月に処し、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により、証人高橋周(昭和三二年一〇月二八日、同年一一月八日の各公判期日に出頭した分)、同石川三郎(昭和三二年一〇月二八日、同年一一月八日の各公判期日に出頭した分)、同北村稔、同古沢喜代子、同浅野きく子、同田丸紀子、同今中良三、同清水ツ子、同橋本辰雄、同黒岩二三男、同滝沢武史、同中村スミ子、同五木田吉家、同柏木信夫、同重田キヨ子に支給した分は各三分し、その一づつを被告人矢崎安重、同安達盛、同成田美智由の、証人米本和夫、同米山雅、同日野原保に支給した分は各二分し、その一づつを被告人矢崎安重、同安達盛の、証人千葉繁男、同佐美英治、同金井一成、同河津一郎、同小甲実に支給した分は被告人矢崎安重の、証人三堀喜三郎、同小山栄吾、同高橋周(昭和三四年一一月三〇日の公判期日に出頭した分)に支給した分は被告人安達盛の、証人小松哲夫、同鈴木敏弘(昭和三四年一一月三〇日の公判期日に出頭した分)に支給した分は被告人成田美智由の、各負担とする。

よつて主文の通り判決する。

(別紙一覧表略)

(裁判官 吉田作穂 吉岡進 小川昭二郎)

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